SLPとは?Axie Infinityの仮想通貨トークンとその今後を徹底解説

こんにちは、中村健司です。
仮想通貨の話になると、価格やテクノロジーの話題が中心になりがちですが、SLP(Smooth Love Potion)にはもう一つの側面があります。それは、“ゲームを通じて稼ぐ”という経済の実験が、実際に一部の家庭の収入源となっていたという現実です。
特にAxie Infinityというブロックチェーンゲームの中で、SLPは単なるゲーム内アイテムを超えた存在でした。家計を支える、通貨として使う、トークン報酬で生活を補う──そんな状況が現実に生まれていたのです。
この記事では、SLPがなぜ注目を集めたのか、その経済的な構造と背景、そして今なぜ価値が落ち込んでいるのかを、ゲーム設計・流通量・市場心理の側面から丁寧に整理していきます。価格だけで語るには惜しいこのトークンを、いま一度じっくり見直してみましょう。
フォアワード:SLPという仮想通貨が語る、ゲームと経済の交差点
SLP──Smooth Love Potionという名前を聞いて、すぐに仮想通貨を思い浮かべる人は、もう少ないかもしれません。でも、それはかつて、世界中のゲーマーたちが実際に「遊んで稼ぐ」ことができると信じたトークンでした。舞台はAxie Infinity。かわいいモンスターを育て、戦わせ、そして繁殖させるブロックチェーンゲームです。

このゲームの中で、SLPは単なる通貨ではありませんでした。プレイヤーの努力の対価であり、家庭の収入源であり、ときには希望そのものでした。特に2021年には、一部の国や地域でAxieが社会現象になるほどの盛り上がりを見せました。
しかし、ブームには終わりがあるものです。SLPの価格はその後激しく乱高下し、2025年の今、ついに過去最低に近い水準まで下落しています。「稼げるゲーム」の象徴だったトークンは、なぜここまで落ち込んだのか? そして、今もその価値はあるのか?
本記事では、SLPというトークンがどこから来て、どう使われ、どんな未来が待っているのかを、ただの価格チャート以上に深く掘り下げていきます。ゲームと経済が交わる場所で起きた現象を、数字の裏側から一緒に見ていきましょう。
SLPとは何か?──Axie Infinityにおける基本的な役割
まず、SLPっていったい何なんだ?というところから始めましょう。
SLPは「Smooth Love Potion(スムース・ラブ・ポーション)」の略称で、ちょっとふざけた名前に聞こえるかもしれません。でもその役割は意外と真面目です。これは、Axie Infinityというブロックチェーンゲームの中で使われるトークンで、主に“繁殖”(ブリード)というゲーム内の重要な要素に使われます。

Axie Infinityの世界では、自分のAxie(アクシー)というキャラクターを育て、バトルで勝ち、クエストをこなし、その報酬としてSLPを手に入れます。そして、そのSLPを使って新しいAxieを生み出す。こうしてゲーム内の経済が回っていくわけです。
ゲームをプレイする → SLPを稼ぐ → 新しいAxieを作る → さらに稼ぐ
このループが「Play to Earn(遊んで稼ぐ)」の核でした。
一方で、SLPには現実世界とのつながりもあります。取引所に上場しているため、手に入れたSLPは仮想通貨として換金可能。つまり、バトルで得たポイントが、そのままお金になっていた時期もあったわけです。特にAxieが人気絶頂だった2021年頃、東南アジアの一部地域ではSLPを日常的な収入源にしていた家庭もありました。
このように、SLPはゲーム内のアイテムというより、“通貨”としての顔を持つトークンです。ただし、その価値はゲームの設計と市場の動向に大きく左右されます。後述しますが、それが後の混乱の種にもなりました。
ゲームの中のアイテムが、リアルなお金になり得る。しかもそれが全世界に開かれている。そんな仕組みの中核にいたのが、SLPというトークンだったのです。
SLPの歴史 ── 栄光と低迷のタイムライン
SLPという名前が、最初に注目を集めたのは2021年のことでした。Axie Infinityのブームが巻き起こり、仮想通貨界の中でも異彩を放つ存在になったあの頃、SLPは単なるゲーム内通貨を超えた“実益ある資産”と見なされていました。
「遊んで稼げる」という夢。
これは当時、多くの人にとって革命的な響きだったはずです。仮想通貨の報酬がリアルマネーになり、ゲームが副業になる。実際、フィリピンやベネズエラなど、経済状況が不安定な国々では、SLPを稼ぐために家族ぐるみでAxieをプレイする姿も珍しくありませんでした。
では、その「熱狂」はどのように始まり、そしてどう終わっていったのか?年表をなぞるように見ていきましょう。
2021年:絶頂期の始まり
2021年3月、Axie Infinityと共にRoninチェーン上でSLPが本格稼働。ゲームが注目を集めるにつれ、SLPの需要は急激に伸びました。同年7月には、SLPの価格が1トークンあたり0.3997ドルという過去最高値を記録。わずか数ヶ月で、何千倍というリターンを得たユーザーも出現します。
このとき、SLPはまさに「デジタル金脈」だったのです。
2022年:鈍化と警戒のはじまり
ところが、問題はすぐに現れます。Axieの新規プレイヤーが爆発的に増えたことで、SLPの供給が急増。ゲーム内でトークンを稼ぐ人が多すぎて、ブリードに使われるSLPが需要に追いつかなくなっていきました。
価格は下落を始め、0.1ドル、0.05ドル……と段階的に落ちていきます。この頃には「P2E経済は持続可能なのか?」という疑問も各所で聞かれるようになり、Axie自体への関心も徐々に減少していきました。
2023〜2024年:長期の停滞と試行錯誤
開発元のSky Mavisは、Roninチェーンの改善や報酬設計の見直しなど、様々な対策を講じました。ブリードコストの変更、SLPのバーン(焼却)メカニズムの導入、一部コンテンツの報酬縮小……しかし、それでも根本的な問題──**“トークンの発行量が多すぎる”**という点は解決しきれませんでした。
プレイヤーのアクティブ率も下がり、取引所での取引量も減少。SLPは、かつてのような“熱狂の対象”ではなくなり、“沈黙の中で値を落とし続ける存在”へと変わっていきました。
2025年:過去最低値に迫る春
そして現在──2025年4月。SLPの価格は0.0012ドル前後まで下落しています。これは全盛期と比べて、実に330分の1以下という水準です。
「もう終わった通貨なのでは?」
そう思う方がいても、無理はありません。でも実際には、SLPはまだ完全に消えていません。取引は継続しており、Axieのコアユーザー層の中では、再び細々とトークンを回すプレイヤーたちが存在しています。
では、これはただの“失敗例”なのでしょうか? それとも、“調整を経た進化の途中”なのでしょうか?
過去の価格だけを見れば、確かにSLPはジェットコースターのような通貨です。けれど、そのジェットコースターには、乗った人たちの物語があります。夢を見た人、実際に収入を得た人、失望した人、そして今も残ってプレイを続けている人──
この章ではその「数字の上下」の裏にあった人間の動きと、SLPがたどってきた現実的な道のりを、ひとつの流れとして掘り下げてきました。次章では、そのSLPが今、どんな場所に立っているのかをもう少し“システムの中身”から見ていきましょう。
Axie Infinityの経済圏におけるSLPの現在地
SLPの話を続けるうえで、どうしても避けて通れないのが「Axie Infinityというゲーム自体の構造」です。というのも、SLPはそれ単体で存在しているわけではなく、あくまでAxieという巨大なゲーム内経済の一部として動いているトークンだからです。つまり、SLPがどこにどう使われていて、何とつながっているのかを見ていかないと、価格変動の理由も、今後の可能性も見えてきません。
では、その「経済圏」とは一体どんな仕組みなのでしょうか?
Roninチェーンという裏方の舞台装置
まず前提として、Axie InfinityはEthereum上で始まったプロジェクトですが、あまりにガス代(取引手数料)が高騰したことを受けて、独自のサイドチェーン「Ronin(ローニン)」を構築しました。
これによって、SLPを送金・使用する際のガス代はほぼゼロになり、プレイヤーが気軽にゲームを続けられる環境が整えられたわけです。
Roninは、ただのコスト削減策ではありません。それ自体が、Axie経済を安定させるための「閉じた仮想国家」のような役割を果たしていました。SLP、AXS(後述のガバナンストークン)、NFTであるAxieのキャラクター、さらには土地やアイテムに至るまで、すべてがRonin内で完結する世界が出来上がっていたのです。
AXSとSLP:二重構造の通貨設計
Axie Infinityの通貨システムには、実は二つのトークンがあります。
- SLP(Smooth Love Potion):主にプレイヤー報酬やブリードに使われる、流通性の高い“消耗型”トークン。
- AXS(Axie Infinity Shards):ガバナンストークンとして設計され、ステーキングや投票、将来的なエコシステム報酬に使われる“資産型”トークン。
この二重構造があることで、Axie経済は「短期的な稼ぎ」と「長期的な保有・参加」の両方をユーザーに提示していたわけです。SLPはその中でも、日々の活動を支える“血液”のような役割を担っていました。
でも――問題もありました。
SLPは、プレイヤーがゲームをプレイするたびに発行される設計だったため、**「需要が一定でも供給は増え続ける」**という構造的なインフレを抱えていたのです。しかも、ユーザー数が爆発した2021年〜2022年にかけては、発行量が加速度的に増加。これが前章で述べた価格崩壊の要因のひとつでもあります。
NFTとしてのAxieと、SLPの循環経路
ここで少し視点を変えて、SLPが実際に「何と交換されていたのか」を見てみましょう。最も基本的な用途は、**Axieのブリード(繁殖)**です。
具体的には、2体のAxieを掛け合わせて新しいAxieを作る際、一定量のSLPとAXSが必要になります。ブリードされたAxieはNFTとしてマーケットプレイスに出品され、他のプレイヤーに売却することが可能。その結果、SLPは「ゲーム内で得て → ブリードに使って → NFTで売って → 換金する」という、比較的閉じた経路で循環していたわけです。
ただし、このサイクルは常にうまく回っていたわけではありません。新規プレイヤーが減少すると、Axieの需要も減り、ブリードの需要が下がり、結果としてSLPの“出口”がなくなってしまう。供給ばかりが残り、価格は沈んでいきます。
2025年現在、このサイクルの再起動を試みるような施策も少しずつ見られます。たとえば、2025年4月には、AxieアクセサリーのERC-1155への移行が実施されました。これはNFTの規格変更ですが、資産の柔軟性や外部マーケットでの展開を視野に入れた動きでもあります。つまり、「Roninの外」にSLP経済をにじませていく準備が進んでいるとも言えるのです。
プレイヤーと開発者の“温度差”
最後にもう一つ、経済圏の理解に必要な要素として「ユーザーと開発側の視点のズレ」があります。
プレイヤーにとってのSLPは“収入手段”である一方、開発チームにとっては“エコシステムの一要素”です。そのため、Sky Mavis側がゲームバランスの観点からSLPの排出量を調整しようとすると、プレイヤーの収益性が損なわれ、SNS上では反発の声が噴出するということもしばしば起きました。
このズレは、Axie Infinityというプロジェクトの持つ“ゲームであり経済である”という二面性が生む、避けがたい緊張だったのかもしれません。
経済圏──と聞くと難しく聞こえるかもしれませんが、要は「人とトークンがどう関わっていたのか」を見れば、SLPという通貨の意味が少しずつ見えてくるはずです。そしてその関わり方が変われば、トークンの価値もまた変わる。
次の章では、実際にSLPの価格がどのように変動してきたのか。そのダイナミクスを、具体的なチャートと背景とともに深掘りしていきましょう。
SLP価格の変動要因 ── 市場ダイナミクスの読み解き
SLPを語るとき、やっぱり気になってしまうのは「今いくらなの?」という話ですよね。かつては1トークン=約40円近くまで跳ね上がったSLPも、今では0.2円を割り込んでいる状態。冷静に計算してみると、実に200分の1以下という価格になってしまったわけです。

でも、それって単なる“人気の移り変わり”で片づけられる話なのでしょうか? 本当にただのブームが去っただけ?
──実は、そう単純でもありません。
SLPの価格は、見た目以上に複雑な要因が絡み合って動いています。表面的なチャートの裏で何が起きていたのか、一緒に紐解いていきましょう。
市場の需要と供給だけでは語りきれない
仮想通貨の価格が動く理由として真っ先に挙げられるのは、やはり「需要と供給のバランス」ですよね。SLPの場合も、基本的にはこの力学に支配されています。ブリードでSLPを消費する人が増えれば価格は上がり、逆にSLPを稼ぐだけ稼いで使わない人が増えれば、価格は下がっていく。
でも、問題はこの“バランス”が非常に壊れやすい構造になっていたことなんです。
というのも、SLPは「プレイすればするほど、誰でも無限に発行できてしまう」仕組みになっていました。つまり、供給側がエンドレスだった。一方で、消費される場所──ブリードやゲーム内アイテム購入──は限られており、そこに飽和が来るとすぐに需給バランスが崩れてしまう。
結果どうなったかというと、「価格が下がる → ブリードの旨味が減る → SLPを使わなくなる → さらに価格が下がる」という負のループに突入してしまったわけです。
プレイヤー行動の変化がそのまま価格に反映される
SLPの値動きが面白いのは、「投資家の心理」よりも「プレイヤーの行動」に直結していたことです。ゲームのアップデート内容や報酬設計がちょっと変わるだけで、SLPの使用量も価格も大きく動いてしまう。
たとえば、報酬としてもらえるSLPの量が運営によって減らされたとき、プレイヤーの中には「割に合わない」と感じてプレイをやめる人が出てきました。逆に、ブリードイベントや新シーズンでSLPの需要が一時的に高まると、それに合わせて価格も瞬間的に跳ね上がる。こういった価格変動のリズムは、BTCやETHのような“投資型トークン”とはまったく異なる動きを見せていたんです。
それだけに、SLPは“ゲームの空気感”に極端に敏感な通貨でした。
そしてその空気感は、時間とともに変わっていきました。
仮想通貨全体の市況と連動する動きもあった
もうひとつ見逃せないのが、「SLPもまた仮想通貨の一部である」という事実です。Axie Infinityのゲームの中で流通しているとはいえ、実際のトークンは取引所で売買され、リアルマネーと交換されています。つまり、SLPの価格は他の暗号資産と同じく、BTCやETHのような大型通貨の値動きにも影響を受けているんです。
2022年の暗号資産全体の冬(いわゆる“クリプト・ウィンター”)の時期には、SLPも例外なく価格を落としましたし、2024年にかけて一時的に盛り返したタイミングでは、つられて価格が少し戻るという動きも見られました。
とはいえ、SLPの場合は「市場全体」と「ゲーム内需要」の両方に左右されるため、読みにくさが倍増するんです。つまり、“ゲームが盛り上がっているのに市場が冷え込んでる”ときや、“市場は好調なのにAxieの新規ユーザーがいない”といった状況では、価格が思うように上がらない。これがまた難しい。
2025年5月時点の価格水準と市場の見方
そして今──2025年5月現在のSLPの価格は、0.0018ドル前後で推移しています。これは2021年のピーク時と比べて、およそ0.5%の水準。数字だけを見ると、もはや風前の灯のように見えるかもしれません。
けれど、市場には“完全な終わり”というものは存在しません。
SLPもまた、いま静かにくすぶっている状態です。
Axie Infinity自体が新しいコンテンツの拡充を進めており、NFT資産の相互運用性の向上(ERC-1155など)や、外部プロジェクトとの連携も試みられています。そうした動きの中で、「SLPを再び活用する文脈」が生まれてくる可能性もゼロではありません。
価格の変動は、単なる数字の上下ではありません。
そこには、人の行動があり、感情があり、設計の意図がありました。
次の章では、そうしたSLPの価格がリアルの生活にどんな影響を与えたのか──特に、P2E経済圏の中で実際に“SLPで生活していた人々”にどんな現実があったのかを、もう少し踏み込んで見ていきましょう。
SLPが築いた収入の道 ── フィリピンとP2E経済の光と影
ゲームで本当に生活できるなんて──最初は、誰もが半信半疑だったかもしれません。
でも2021年、その“夢のような話”は現実になりました。しかも、ただの一時的なバズではなく、数ヶ月〜1年以上にわたって続いた生活の一部として。
その中心にあったのが、SLPというトークンです。
そしてその舞台となったのが、フィリピンをはじめとする東南アジアの国々でした。
なぜフィリピンだったのか?
理由はいくつかありますが、もっとも大きな要因は「収入の相対価値」です。
当時のSLP価格は1トークンあたり10〜30円前後を推移しており、1日数時間Axieをプレイすることで、1日に数千円〜1万円近くを稼ぐことができるプレイヤーも珍しくありませんでした。
日本で聞くと「ちょっとしたお小遣い」程度かもしれません。でも、月収が2〜3万円台の地域にとっては、それは大きな違いです。しかもこれは、スマホひとつで家の中からできる。通勤も不要で、学歴も職歴も問われない。
当然のことながら、多くの人がこの「稼げるゲーム」に飛びつきました。
奨学生制度(Scholar System)という独自の雇用構造
さらに面白かったのが、「Scholar(スカラー)制度」と呼ばれる仕組みです。
Axieを始めるには、3体のキャラクターが必要でしたが、当時の初期投資は10万円以上と高額でした。これをクリアするために生まれたのが、“資本を持つプレイヤー”が“プレイする人”にアカウントを貸し出し、得られたSLPを分配するという制度。
貸す側は「マネージャー」、借りる側は「スカラー」と呼ばれ、1日3〜4時間のプレイでSLPを稼ぎ、その3〜5割を自分の収入として受け取る──そんな“デジタル労働”の形が生まれました。
この制度によって、ゲーム内には擬似的な雇用関係が形成され、スカラーは一種の“ゲーム労働者”として収入を得ていたのです。
しかも、フィリピンではこの制度を通じて1万人を超える人々が生活の糧を得ていたと言われています。
夢はやがて、負担に変わった
しかし、バブルは長くは続きませんでした。
SLPの価格が落ち始めると、労働時間あたりの報酬も目減りし、やがて「最低賃金以下」の水準にまで落ち込みます。
最初のうちは、「まあ、そのうちまた上がるだろう」と希望を持って続けていた人も多かった。でも、価格は下がる一方。ブリード需要も減少。スカラー制度を運営していたマネージャーたちは、配分の見直しを迫られ、プレイヤーとの関係もぎくしゃくしていきました。
プレイヤーの中には、ゲームの中でしか収入が得られなかったという人も少なくなく、価格暴落によって生活が立ち行かなくなったケースも報告されています。SNSには、「SLPで生活を立てていたが、今は日雇い仕事に戻った」というような現実的な証言も数多く残っています。
「ゲームで稼ぐ」は幻想だったのか?
この問いに、正解はありません。
たしかに、価格が維持できなかったこと、仕組みの設計がインフレに弱かったこと、そしてP2Eモデルそのものが投機と労働の境界線を曖昧にしたこと──それらはすべて反省点として残りました。
けれど、同時にSLPは、「経済的に困難な状況にある人たちが、デジタル空間で収入を得る」という新しい可能性を示したのも事実です。
今となっては「あれは一過性だった」と片づけることもできます。でも、あのとき本当に助けられた人がいて、コミュニティがあって、仲間と一緒に勝利を分かち合った夜があった──そういった“人間の記憶”は、価格チャートには決して現れません。
今、SLPの価格はかつてのような水準からは程遠いものの、それでも取引は続いています。Axieもまた、かつての「稼ぐゲーム」から、「楽しみながら時々得するゲーム」へと方向転換を試みています。
次の章では、そんな現在から未来へ──SLPはこれからどこへ向かおうとしているのか。専門家の予測や、開発側の取り組みも含めて見ていきましょう。
SLPの未来予測とゲーム開発側の動き
さて、ここまでの流れを読んで、「で、SLPはこれからどうなるの?」と思った方も多いのではないでしょうか。
価格は下がりきっている、プレイヤーも減っている、それでもまだ完全に消えてはいない──この曖昧な立ち位置こそが、今のSLPの「現在地」です。
でも、“今がどんな状態か”よりも、“これからどこへ向かうのか”の方が気になりますよね。
ということでこの章では、SLPが辿るかもしれない未来について、いまわかっている範囲の情報と、少しだけ想像も交えながら掘り下げていきます。
専門家の価格予測:希望か、現実か
2025年5月現在、SLPの価格は0.0018ドル前後。数字だけ見ると、まさに“底”に見える水準ですが、じゃあここから上がる見込みがあるのかというと……意見は分かれます。
たとえば、価格予測サイト「CoinCodex」では、2025年内の予測値として0.0017〜0.0019ドルという極めて慎重なレンジが提示されています。つまり「ほぼ横ばいか、やや下落」といったニュアンスです。
上昇トレンドに入る気配は、今のところ乏しい──というのが冷静な見方と言えるでしょう。
もちろん、仮想通貨の世界において未来予測は常に不確かです。突発的なアップデートやパートナーシップの発表で一時的に価格が跳ねることもあるし、新規参入者が増えれば需要も変化する。
ただ、それでもSLPに関しては、価格だけに希望を託すのは少し危険かもしれません。
開発側の動き:SLPを再設計する試み
じゃあ開発側はどうしてるの?
何もしていないわけではありません。むしろ、Sky Mavisはここ最近、静かにしかし確実に**“Axie経済の構造再編”**に取り組んでいるように見えます。
その一例が、**2025年4月に実施された「AxieアクセサリーのERC-1155移行」**です。これはちょっと技術的な話になりますが、要はNFTの規格を変更することで、複数のアイテムを一括で管理・取引できるようにする仕組みです。
これがなぜ重要かというと、今後Axieの世界がより“オープン”な構造にシフトしていく可能性を示唆しているから。たとえば、他のゲームやサービスとの相互運用性、Roninチェーン外での取引機会の拡大など、SLPやAxie資産を「別の文脈」で使える道が徐々に模索されているのです。
加えて、Sky MavisはRoninチェーン自体の成長にも力を入れており、他のプロジェクトをRoninに誘致することで、単一ゲーム依存からの脱却を狙っています。
言い換えれば、**「Axieだけに頼らない経済圏」**が構築されつつあるわけですね。
Play to Earnから、Play and Ownへ
また、トークン設計やゲームコンセプトそのものについても、変化の兆しがあります。
最近では「Play to Earn(稼ぐためのプレイ)」という言葉から、「Play and Own(所有しながら遊ぶ)」というコンセプトへの移行が、業界全体で進んでいます。
これは、ゲームの中で得られる報酬を“お金として換金”することに主眼を置くのではなく、**「自分の時間や努力で得た資産(NFTやトークン)を所有し、必要に応じて活用する」**という方向性です。
SLPも、こうした文脈の中で再定義される可能性があります。かつてのような“日給制トークン”ではなく、ゲーム内での進行やコミュニティ活動を支えるポイントのような立ち位置に変わっていくかもしれません。
SLPは生き残れるのか?──現実的な視点で考える
正直なところ、SLPが再び「収入源として熱狂される時代」が戻ってくる可能性は低いでしょう。
でも、それは“終わり”ではありません。
むしろ、SLPが“価値あるトークン”として生き残るためには、これからが本番とも言えます。Axie Infinityというゲームが、単なるP2Eから“居場所としてのゲーム体験”へと進化できるかどうか。
そしてその中で、SLPが自然に使われ、意味を持つようなシステムが再設計できるかどうか。
それは、投資家の手にあるのではなく、プレイヤーと開発者がどれだけ丁寧に「関係性」を築いていけるかにかかっているのかもしれません。
次の章では、SLPをより広い視点でとらえるために、他のゲーム系トークンと比較していきます。どういった点でSLPは強みを持っていたのか、また、どこに課題があったのか──そうした比較から見える“ポジションの変化”を紐解いてみましょう。
SLPは他のゲーム内トークンとどう違うのか?
仮想通貨を使うゲーム──いわゆる「ブロックチェーンゲーム」は、今ではもう珍しい存在ではありません。2021年から2022年にかけてはAxie Infinityを筆頭に、次々とP2Eタイトルが登場し、そのたびに「次のAxieか?」と騒がれました。
でも、そうやって話題になったゲームたちの中で、SLPほど浮き沈みが激しく、それでもここまで名前が残っているトークンって、実はそう多くありません。
では、なぜSLPだけが“特別に大きな山と谷”を経験したのでしょう?
あるいは、逆に言えば──SLPって他のゲーム内トークンとどう違っていたのか?
この章では、いくつかの代表的なブロックチェーンゲームと比較しながら、SLPの位置づけを掘り下げていきます。
GALA(Gala Games)との比較:エコシステムの規模感
まず取り上げたいのは、Gala GamesのGALAトークン。
これは、Axieのように“ひとつのゲームに紐づいた通貨”ではなく、複数のゲームやメタバース、音楽、映画などにまたがって利用できる“プラットフォーム型”のトークンです。
この違い、実は結構大きい。
SLPはあくまで**「Axie Infinityの中でだけ使える通貨」**でした。つまり、ゲーム自体がうまくいかなければ、SLPの価値も一緒に沈む。単一依存のリスクが常に付きまとっていたわけです。
一方でGALAは、「Galaチェーン」という独自エコシステムを形成し、トークンの使い道が分散していました。仮に1つのゲームがうまくいかなくても、他のコンテンツで使い道が残る。
そのぶん、投機的にはあまり派手な動きをしないかもしれませんが、価値の支え方が分散的だったんですね。
ILV(Illuvium)との比較:希少性と価値の作り方
次に挙げたいのが、Illuvium(イルビウム)のILVトークン。
こちらはSLPとはまったく逆の設計思想で、トークンの供給量を極めて限定的に保ち、希少価値によって価格を支えるというモデルです。
ILVは、ステーキング報酬やDAO(分散型自律組織)への参加インセンティブに使われる資産型トークン。つまり、毎日ジャブジャブ出てくるSLPとは違って、**「出し渋ることで価値を守る」**という戦略を取っていました。
結果として、ILVはボラティリティこそ高いものの、乱発によって価値が崩れることは起こりにくく、長期保有を前提にしたトークノミクスが機能しています。
SLPの場合、ゲーム体験に密着していたぶん「稼げる」「使える」感覚はわかりやすかったですが、逆に通貨としての“重み”が弱く、投機と労働の狭間で中途半端な位置に落ち着いてしまったのかもしれません。
AURY(Aurory)との比較:世界観とトークンの一体性
最後に、ソラナ系のタイトルであるAurory(オーロリー)を見てみましょう。
AuroryではAURYというトークンが、ゲームプレイだけでなく、キャラクターの育成、報酬、NFTの取引、PvPの報酬など、あらゆる要素に深く統合されています。
特筆すべきは、トークンとゲームの“世界観の一致感”です。
Auroryでは、ゲーム内の経済活動がすべてAURYで完結しており、トークンが「ゲームの中のリアルな経済」としてきちんと成立している感覚があります。
SLPも同様に“プレイして得られる”設計ではありましたが、その消費サイクルや文脈は、時として“ただのゲーム通貨”の域を出ませんでした。ブリードに偏りすぎていたとも言えます。
結果的に、トークンの存在が「ゲームの中に自然と溶け込んでいる」という感覚は、SLPよりAURYの方が強かったという声もあります。
SLPの強みと弱み、そしてその教訓
こうして他のゲーム系トークンと比べてみると、SLPの特徴が浮き彫りになります。
- わかりやすさと入りやすさはピカイチだった
- 実際に生活を支えたという社会的インパクトもあった
- しかし、持続性・供給管理・通貨価値の設計には課題が多かった
- ゲーム外での使い道がなく、依存性が極端だった
これは「失敗」ではなく、むしろP2Eトークンの“第一世代”としての大きな実験だったと捉えるべきかもしれません。
そして、その経験は確実に、次世代のブロックチェーンゲーム設計に受け継がれています。
SLPが築いた道は、たしかにでこぼこでした。でも、その足跡があったからこそ、今のゲームトークンたちは慎重かつ戦略的に、経済圏とプレイヤーの接点を設計するようになったのです。
次の章では、そうした“疑問の声”や“関心の断片”に答えるべく、読者の皆さんからよく寄せられる質問をQ&A形式でまとめてみましょう。今までの話を整理しながら、細かい疑問にも丁寧に触れていきます。
よくある質問(FAQ)
これまでの章を通して、SLPの基本から歴史、価格変動、他トークンとの比較までをかなり掘り下げてきました。でも、まだ少し引っかかっていることや、「結局そこってどうなの?」という疑問もあるかもしれません。
この章では、そうしたよくある質問に対して、やや丁寧めに、かつ会話するようなトーンで答えていきます。読み飛ばしてOKな構成にはしていますが、実はかなり重要な本質も隠れていたりします。
SLPって、今でもちゃんと稼げるんですか?
うーん、これは聞かれることが多いのですが──正直な答えとしては「以前のようにはいかない」です。
2021年〜2022年の頃は、1日に何十SLPも稼げば、それが即、何千円〜1万円になる時代でした。でも今は、価格が0.0018ドル前後(約0.25円)なので、同じ労力でも得られる金額は1/100以下。
つまり、”副業としての実用性”はほとんどなくなっています。
ただし、完全にゼロというわけでもありません。今も一部のプレイヤーは、スカラー制度や低コストプレイで小銭を稼いでいますし、「ゲームを楽しんでいたら少しトークンが貯まった」というライトな関わり方であれば、今でも成立しています。
ガチで“稼ぐ”というより、「ついでに何か得られたらラッキー」ぐらいの距離感が、今のSLPと付き合う現実的なスタンスかもしれません。
SLPは今、どこで手に入りますか?
主に二通りあります。
1つ目はAxie Infinityをプレイして手に入れる方法。今でもバトルやクエスト、特定のイベントなどでSLPを稼ぐことは可能です。以前ほどのドロップ量ではありませんが、ゲーム内報酬として健在です。
2つ目は、取引所で購入する方法。Binance、Gate.io、Bybitなど、多くの大手取引所でSLPは今も現役で取引されています。価格は安定とは言えませんが、板の厚さ(取引量)は一定以上あるので、流動性の不安は今のところ大きくありません。
Ronin Walletを通じたゲーム内連携を含めて、「稼ぐ・使う・買う・送る」という一通りの動線は、今でも維持されています。
今からSLPに投資する価値ってありますか?
これは“投資”の定義によって答えが変わってきます。
もし「SLPを買って数ヶ月で10倍にしたい」と思っているなら──それはかなり無謀です。SLPはすでにメジャーな存在であり、かつ市場ではあまり注目されていない状況なので、短期で爆発的に上がるような材料は見当たりません。
ただし、「Axie Infinityの中で、資産の一部としてSLPを持っておきたい」とか、「Roninチェーン全体の動きに注目している」というような文脈なら、一定の合理性はあります。
もっと言えば、「プレイしながら、ゲーム資産の一部として軽く押さえておく」ぐらいの投資感覚が、今のSLPには一番合っているかもしれません。
過去の熱狂に引っ張られず、“控えめな期待”で接するのがベストです。
SLPの価格が上がる可能性はもうないんでしょうか?
可能性ゼロとは言いません。でも、以前のような「仕組みだけで自然に上がる」時代はもう終わっています。
SLPの価格が上がるには、はっきり言って大きな“再定義”が必要です。たとえば:
- ゲームの中での用途が増える(=新しい使い道ができる)
- SLPのバーン(消滅)制度が強化されて供給量が減る
- Axieが他ゲームやサービスと連携してSLPを横展開する
──こういった“トークンの役割そのものが進化する”ような変化があって初めて、価格上昇の芽が生まれます。
現時点では、開発側がそこに向けて静かに動いている形跡はありますが、まだ結果が出ている段階ではありません。「願望だけで買う」のは、やっぱりおすすめできません。
SLPって、他の用途に転用できるんですか?
2025年5月時点では、基本的にAxie Infinity関連に限定されています。
一部NFTマーケットでSLP建ての取引が可能になった例はありますが、実用範囲は非常に限られており、「Axie以外でSLPを使って何か買う・払う」ようなシーンはほとんどありません。
ただし、先述したERC-1155移行の流れや、Roninチェーン上での外部連携プロジェクトの登場によって、将来的に「他のRoninゲームでSLPを使う」という方向性が生まれる可能性はあります。
今のところは、用途としてはまだ“モノリシック(単一的)”であるという理解が現実的です。
このFAQが、読者の方にとって“知識のつなぎ”になればうれしいです。次でいよいよ締めくくりです。SLPというトークンが歩んできた道を振り返りながら、これからどう向き合うべきかを一緒に考えてみましょう。
結びに:SLPをどう捉えるべきか
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
SLPの話って、思っていたよりもずっと長く、そして深かったと思いませんか?
もしかすると、「ただのゲーム内通貨でしょ」と思っていた人にとっては、その背景にあった経済、コミュニティ、そして現実の生活との関わりの濃さに、ちょっと驚いたかもしれません。
SLPは、たしかに今は静かな存在です。価格は安く、話題にのぼる機会も減りました。かつてのような熱狂を取り戻すのは、もう難しいかもしれない──それは事実です。
でも、それでもなお、“終わったトークン”として雑に片づけてしまうには、あまりにも多くのことを背負いすぎていた気がします。
たとえば、フィリピンで本当にSLPを頼りに生活していた人がいたこと。
たとえば、奨学生制度を通じて知らない誰かと協力し合っていた日々があったこと。
たとえば、仮想通貨の世界で「ゲーム=労働=通貨」という境界線を曖昧にした先駆けだったこと。
こうした記憶や実験の数々は、SLPという存在が一度は“新しい経済の形”に触れた証です。そしてそれは、失敗だったとは思いません。
成功とか失敗とか、そういう単純な話ではないんですよね。
むしろ大事なのは、**「SLPの体験から、私たちが何を受け取ったか」**なんだと思います。
──仮想通貨がゲームと融合したとき、そこには何が起こるのか。
──トークンが“稼ぐ手段”として機能したとき、人と人の間にどんな関係が生まれるのか。
──そして、それが崩れたときに、どんな後味が残るのか。
SLPは、それらすべてを一つのトークンに詰め込んだ存在でした。良い意味でも、悪い意味でも。
これからもブロックチェーンゲームは進化を続けるでしょう。新しいトークン、新しい経済圏、新しいプレイヤー体験が生まれるたびに、私たちはまた似たような問いに出会うことになると思います。
そのとき、SLPの記憶は、ただの懐かしい過去ではなく、“最初の問い直し”として息を吹き返すかもしれません。
少なくとも、私にとってSLPは、「あの時代に確かに存在していたリアルな通貨」であり、「人と仮想経済がどう交わるかを教えてくれた生きた教材」でした。
──あなたにとっては、どうだったでしょうか?
そんなことをふと考えながら、この記事を締めくくりたいと思います。
読んでくださって、本当にありがとうございました。
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